工業の業界と介護の業界とでは、使う用語や“常識”が 違って、話が噛み合わないこともたくさんありましたよね。
関:
うちの鉄工所に来る依頼のほとんどは、お客さんの工場から「シャフトが壊れたから修理してほしい」「部品を交換してほしい」といったものなので、田尻さんたちからの依頼は新鮮でした。自分も将来的には、介護したりされたりするだろうから、人ごとではないなと。でもさすがに、車いす全部をつくるつもりはなくて、前輪だけ固定すれば真っ直ぐ進むのではないかとか、市販品に取り付けるものをつくれば解決できるかな、くらいに考えていました。
田尻:
途中まで、その方向で進めていましたよね。
関:
市販の車いすは2、3年に1回、フルモデルチェンジするという衝撃的な事実を知るまで(笑)。フルモデルチェンジすると全体の寸法が変わり、取り付ける部品が合わなくなってしまうから、「それじゃ、ダメじゃないの?」って。着手してから3、4年たってましたよね。
飯沼:
あと、同じ型の車いすでも個体差があって、うまく部品を付けられるものとそうでないものがあるということも判明して。
関:
まさか、そこで振り出しに戻るとは(笑)。
飯沼:
そこからが長かったですよね。
田尻:
よく諦めずに、続けてくださいましたよ。
関:
実は、ずっと不安でした。改良したものをお見せするときに毎回、「飯沼さんに、今度はどこをダメ出しされるかな」って、思っていましたから。
関:
工業の業界と介護の業界とでは、使う用語や“常識”が違って、話が噛み合わないこともたくさんありましたよね。田尻さんに車いすの構造の話をしても、半分もわかってくれないし(笑)。
田尻:
そうですね(笑)。中国語とドイツ語くらいに違うんじゃないですか?
関:
僕らの「普通、こうでしょ?」がまったく通じない。それで毎回、どうやって説明したらわかってもらえるか、考えていました。
飯沼:
関さんに「それはできない」と言われても引き下がらず、「いや、できそうなんですけど」と、しつこくお願いしてしまいました。
宮田:
飯沼さんは、前職でオートバイの整備をしていましたよね。それも、ここまで形にできた大きな理由だと思います。
飯沼:
オートバイは車いす同様、金属、樹脂、ゴムでできた部品や電気を使うので似ている部分もあり、中途半端な知識があるから、関さんに「こうしてほしい、ああしてほしい」とリクエストできたんだと思います。
素人だから、言いたいことが言えたんです。ノウハウがあったら、関さんに頼むまでもなく「無理だよな」と、ほとんど諦めていたかもしれないです。